大阪地方裁判所 昭和42年(わ)763号 判決 1968年4月04日
本籍
八尾市大字楽音寺五二二番地
住居
同市山本町南四丁目一八番地
医師
貴島秀彦
大正一五年六月八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官丸尾芳郎出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人を罰金二九〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、八尾市大字楽音寺二六三番地において貴島病院本院を、大阪市生野区腹見町四丁目八七番地において、貴島第二病院を併せ経営している者であるが、所得税を免れようと企て
第一 昭和三八年度における所得金額が五七二〇万一一四六円、これに対する所得税額が三三四六万七一五五円であるにもかかわらず、診療収入の一部を除外し、架空費用を計上する等の不正行為により、右所得金額中四八五三万三三四円を秘匿したうえ、同三九年三月一二日八尾市八尾税務署において、同署長に対し、所得金額が八七六万八一二円、これに対する所得税額が三二八万五八〇六円である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書を提出し、よって同年度分の所得税三〇一八万一三四九円を免れ、
第二 同三九年度における所得金額が七八四六万二四二七円、これに対する所得税額が四九二一万七一八八円であるにもかかわらず、診療改入金の一部除外、架空費用を計上ならびに自己の所得の一部をあたかも使用人三角忠雄の所得であるように装い、これを同人名義で分割申告し、所得税の累進税額を免れる等の不正行為により、右所得金額中六六一一万七三一二円を秘匿したうえ、同四〇年三月一二日前記八尾税務署において、同署長に対し、被告人名義で所得金額が七七九万五〇九六円、前記三角忠雄名義で所得金額が四五五万一九円(以上合計額一二三四万五一一五円)右被告人名義の所得金額に対する所得税額が二八二万八二〇〇円、右三角忠雄名義の所得金額に対する所得税額が一四九万一三一五円(以上合計金四三一万九五一五円)である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書各一通を提出し、よって同年度分の所得税四四八九万七六七三円を免れ
第三 同四〇年度における所得金額が一億三八二五万五五五三円、これに対する所得税額が九四〇四万二七八六円であるにもかかわらず、前示第二と同様の不正行為により、右所得金額中一億一六一七万三八八〇円を秘匿したうえ、同四一年三月一四日前記八尾税務署において、同署長に対し、被告人名義で所得金額が一〇四二万六六九六円、前記三角忠雄名義で所得金額が一一六五万四九七七円(以上合計額二二〇八万一六七三円)右被告人名義の所得金額に対する所得税額が四一一万六三〇〇円、右三角忠雄名義の所得金額に対する所得税額が四八四万七四三五円(以上合計額八九六万三七三五円)である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書各一通を提出し、よって同年度分の所得税八五〇七万九〇五一円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示の事実全部につき
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書(二通)
一、収税官吏の被告人に対する質問てん末書(一三通)
一、被告人の昭和四一年一二月一七日付、同四二年二月四日付各供述調書
一、収税官吏の次の者らに対する各質問てん末書(括弧内の年月日の表示は、その作成日付を示す。以下同じ)
貴島貞彦(同四一年一〇月一八日、同月二〇日、同月二七日、同年一一月一九日、同月二六日、同四二年一月一二日)
小池久枝(同四一年一〇月二〇日、同月二一日)
三木和子(同年一〇月二一日、同四二年二月三日)
永井一雄(同四一年一〇月一八日)
一、次の者ら作成の各供述書
貴島貞彦(同年一二月二一日)(二通)
小池久枝(同月二〇日)(二通)
田出嘉祐(同四二年一月二五日)(二通)
一、田中健治作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書
一、福山寛外三名作成の銀行調査書(二通)
一、福山寛作成の銀行調査書(二通)
一、岡田只夫作成の「確認書」と題する書面(二綴)
判示第一の事実につき
一、収税官吏福岡正美作成の被告人名義の昭和三八年分所得税確定申告書にかかる証明書
一、三木和子作成の同四二年一月一三日付供述書
一、収税官吏田中健治作成の脱税額計算書(昭和三八年分)
判示第二の事実につき
一、収税官吏福岡正美作成の被告人および三角忠雄名義の同三九年分所得税確定申告書にかかる証明書各一通
一、貴島貞彦作成の同四二年一月一二日付供述書
一、収税官吏田中健治作成の脱税額計算書(同三九年分)
判示第三の事実につき
一、同福岡正美作成の被告人および三角忠雄名義の同四〇年分所得税確定申告書にかかる証明書各一通
一、収税官吏の貴島貞彦に対する同四一年一二月二〇日付、山田清司に対する同四二年一月三〇日付各質問てん末書
一、貴島貞彦作成の同年一月二七日付、硲悦章作成の同月二五日付各供述書
一、収税官吏田中健治作成の脱税額計算書(同四〇年分)
判示第二および第三の各事実につき
一、収税官吏の次の者らに対する各質問てん末書
貴島貞彦(同四一年一一月二六日、同年一二月一九日)
小池久枝(同四二年二月三日)
一、次の者ら作成の各供述書
三木和子(同四一年一二月二〇日)(二通)
山田清司(同年一一月二一日)
梶原賢一(同月一四日)
一、船津光佑作成の同年一〇月一八日付「確認書」と題する書面
(法令の適用)
被告人の所為中、判示第一および第二の点は、いずれも所得税法(昭和四〇年法律第三三号)附則第三五条により改正前の所得税法(昭和二二年法律第二七号)第六九条に、同第三の点は、所得税法(昭和四〇年法律第三三号)第二三八条に各該当するところ、被告人が本件各犯行により免れた所得税額は、いずれも右の各法条に定める罰金額の上限である五〇〇万円をはるかに超え、また被告人の本件各犯行による秘匿所得額の所得全体に対する割合も全体として低くなく、しかも遂年上昇していること、他方被告人の本件各犯行の動機中には被告人がかねて念願していた被告人の経営する病院における低所得階層の患者に対する診療、看護の人的物的設備を拡充するための資金蓄積のことがあり、必ずしも私的な慾望の追及のみにとどまらなかったこと、そして現在右病院を法人組織に移し、公明な経理の下に運営していることと被告人自身に改悛の情が顕著であることに徴すると再犯のおそれがないことおよび被告人は本件各犯行にかかる三個年度の所得について、そのうち会社保険診療報酬による事業所得においては、実額の必要経費によってこれを算定したところに従い、確定された所得額に見合う所得税ならびにこれを前提とする加算税および住民税を完納しているところ、この税額は、右事業所得を租税特別措置法第二六条第一項による特例の所得計算によって算定した場合の税額と比較するとき、これを大幅に上廻ることが認められ、このことは一に同法第二六条第二項の手続をとらなかった被告人自身の責任ではあるけれども、税負担の実質的公平の見地から、右の被告人の不利益な事情を本件の量刑上無視できないことその他諸般の情状を考慮し、所定刑中罰金刑を選択し、以上は、刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項により、いずれも五〇〇万円を超える判示の免れた所得税の額に相当する金額を合算した罰金額の範囲内において、被告人を罰金二九〇〇万円に処し、同法第一八条により右罰金を完納することができないときは、四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上清)